固溶化熱処理
固溶化熱処理はSUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼が代表的に用いられる熱処理です。加工・溶接などによって生じた内部応力の除去、劣化した耐食性を向上します。
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316など)の固溶化熱処理
(1)目的
- Cr炭化物およびシグマ相を固溶させる。
- 再結晶させて軟化させる。
- 耐食性が最もよい状態にする。
- 内部応力が除去される。
(2)方法
固溶化熱処理(solution treatment)、鋼の合金成分を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間保持し、その後急冷してその析出を阻止する操作を行います。
1.加熱温度……約1000~1100℃
2.保持時間……25mm厚につき1時間の割合
3.冷却……常温まで急冷。とくに900~500℃の区域では結晶粒界に、Cr炭化物が析出しやすいのでこの温度範囲は急冷が必要です。
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高マンガン鋼(SCMnH)の固溶化熱処理
(1)目的
鋼はC1%、Mn13%、で鋳造品が主です。鋳造組織は樹状晶で炭化物は結晶粒界に析出していますが、これを安定なオーステナイト組織にします。
(2)方法
炭化物など合金成分が固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間保持し、水冷してその析出を阻止する水じん処理(water toughening)を施します。
1.加熱温度……約1000~1100℃
2.保持時間……25mm厚につき1.5時間の割合
3.冷却……水中急冷
表層は鋳造肌であり、さらに水じん加熱による脱炭をともなっているから不安定なオーステナイト組織となっています。研削または切削でこれらを除去する必要があります。
固溶化熱処理の事例1
溶接したステンレス(SUS304)の粒界腐食対策
SUS304のようなオーステナイト・ステンレスでは溶接後には粒界腐食対策として固溶化処理するのがベストです。さまざまな理由からそれが採用できない時は次の最善策としてSUS304Lや316Lなどの低炭素ステンレスを選定して応力除去焼鈍することが考えられます。 一般的ではないですがチタン添加したSUS321やニオブを添加したSUS347(安定化ステンレスと言う)も粒界腐食対策としては有効です。
固溶化熱処理の事例2
SUS304を加工したら磁石に強く反応するようになりました。固溶化熱処理によって磁性を取り除きました。
固溶化熱処理の事例3
熱処理済みのインコネルのバネの再熱処理
時効硬化処理を再処理すると『過時効』という状態になる可能性があります。過時効とは、硬化のために熱処理を施しているわけですが、最適とされている時間以上に処理することで、さらに硬度を増すわけではなく硬度を落とすまでに変化してしまいます。 対策として、再処理の前に固溶化処理をして再度、時効硬化処理を行います。
武藤工業では、神奈川県の本社、静岡県の東海事業所、岩手県の東北事業所のいずれの工場でも固溶化処理を行っております。
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熱処理技術コラム
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