金属熱処理 Q&A
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インコネル718とはどのような合金ですか?SUSとの違いは?

インコネル718(Inconel 718)は高温、高応力、腐食性の環境下で優れた性能を発揮するニッケル基超合金です。
主成分が鉄であるSUS(ステンレス鋼)と比較して、高温強度、耐熱性、耐酸化性の面で明確な優位性を持ちます。
インコネル718は主に航空宇宙分野のジェットエンジンやガスタービン、原子力発電所など非常に厳しい条件下で用いられます。
化学組成はニッケル50~55%、クロム17~21%、鉄17~21%、ニオブ4.75~5.5%、その他モリブデン、チタン、アルミニウムなどを含有します。
特に、析出硬化処理によってニッケルとニオブが結びついた微細な化合物を形成することで硬くなり、約650℃の高温でも強度を維持し、耐熱性が向上します。
ただし、析出硬化処理は厳密な温度管理が求められ、不適切な条件下では同じニッケルとニオブの化合物でも粒子が粗大化してしまい、逆に材料が脆くなり強度や靭性が低下するリスクがあります。
一方、一般的なステンレス鋼(例:SUS304やSUS316)は鉄を主成分とし、高温(650℃以上)では強度が急激に低下し、粒界腐食(鋭敏化)も発生しやすくなります。
耐熱鋼として設計されたSUS310Sなどの特殊鋼種は700~800℃程度の環境でも一定の強度を保持できますが、それでもインコネル718の性能には及びません。
また、インコネル718で使われる析出硬化処理は、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304やSUS316には適用できません。
これは、これらのステンレス鋼が構造上、析出硬化に必要な微細な化合物を形成しにくいためです。
一方、析出硬化型ステンレス鋼(例:SUS630や17-4PH)では同様の析出硬化処理が可能ですが、その効果は室温から約400℃程度の比較的低い温度範囲でしか維持できず、高温域では強度が低下します。結果として、高温・過酷な使用条件においてはインコネル718が圧倒的に有利な選択肢となります。
※注記:「γ”相(ガンマダブルプライム相)」とはNi₃Nbという化合物であり、析出硬化処理において主要な強化相として作用します。「δ相(デルタ相)」も同じNi₃Nbという化合物ですが、こちらは粗大化した粒子として析出し、材料を脆化させるため、性能低下の原因となります。
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