金属熱処理 Q&A

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SUS304の鋭敏化しているとどうなりますか?

本来、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304は優れた耐食性を重視して使用されますが、特定の熱処理条件によってその大事な耐食性が弱まってしまうことがあります。
この現象を鋭敏化と呼んでいます。具体的には、特に約600℃から800℃の温度帯で加熱され続けると、鋭敏化が発生することがあるとされています。

鋭敏化が起きているかどうかは、その組織を観察することで分かります。その鋭敏化の程度(軽微な鋭敏化、深刻な鋭敏化など)は、再活性化率(Rm)%という数値で把握することができます。
これはJIS G 0580に準拠した簡便的な測定方法です。

武藤工業株式会社では、この鋭敏化度の測定を承っています。
再活性化率が低いほど鋭敏化しておらず(例えば0.0%~5%未満)、高いほど鋭敏化している(例えば15.3%や54.78%)と判断されます。(社内基準)

鋭敏化は耐食性に明確な影響を与えます。簡易塩水浸漬による耐久テストでは、1025℃で急冷する固溶化処理を行ったSUS304は、約2週間(365時間)の塩水浸漬でも錆が発生しませんでした。
これは、固溶化処理が鋭敏化を抑制する効果があるためと考えられます(固溶化処理後の再活性化率は0.0%)。

一方、応力除去焼鈍として400℃、500℃、550℃、600℃で空冷したものは、錆の発生が認められました。
特に600℃で空冷したものは高い再活性化率(54.78%)を示しており、この温度帯での加熱が鋭敏化を引き起こし、耐食性を低下させることが実験で確認されています。

市販されている材料の比較でも、焼鈍材に鋭敏化した組織が認められ(再活性化率21.49%)、耐食性低下の可能性が示されています。
また、溶接後の熱処理においても、応力除去焼鈍(600℃)では鋭敏化が認められましたが、固溶化処理(1025℃)や応力除去焼鈍(400℃)では鋭敏化が抑制されました。

鋭敏化は機械的性質にも影響を与える可能性があります。
引張試験の結果、強度(0.2%耐力、UTS)については鋭敏化しても大きな変化は認められませんでしたが、破断伸びと絞りは1000℃以下の処理温度で徐々に低下する傾向が確認されました。

さらに、鋭敏化したSUS304は固溶化処理したものと比べて破断面の様相が肉眼でもはっきり分かるほど異なります。マイクロスコープで見るとひび割れしているように見え、SEMで見ると「キメの細かさ」に違いが確認できます。
これらの破断面の変化は、破壊挙動が変わっている可能性を示唆しています。

鋭敏化したものは、いったん腐食が進むと、その性質が著しく早いスピードで劣化していくのではないかと私共では『推測』しています。
(この腐食速度に関する実証実験は弊社では行っていません)

したがって、SUS304を使用する際には、熱処理、特に約600℃~800℃の温度帯での加熱時間管理が、耐食性や長期的な信頼性を維持するために非常に重要という考えになります。

熱処理は鋼に機能を付与する自然現象を利用するものですが、適切な知識に基づいて条件を選択することが、意図しない鋭敏化による特性変化を防ぐ鍵と言えます。

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