金属熱処理 Q&A

 ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 固溶化熱処理 / 応力除去焼鈍 / 焼なまし / 真空熱処理に関するお問い合わせ

SUS304耐食性低下(鋭敏化)する温度帯というのがありますか?

「鋭敏化」と呼ばれる現象が発生するSUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性が低下します。

鋭敏化は、特に約600℃~800℃の温度帯で鋼材が加熱され続けることによって引き起こされる現象です。
この温度域での加熱により、結晶粒界にクロム炭化物が析出しやすくなり、そのため周辺のクロムが欠乏することで耐食性が局所的に低下します。

具体的には、以下のような状況で耐食性低下のリスクが高まります。

●約600℃~800℃での熱処理
例えば、応力除去焼鈍など、この温度帯で行われる熱処理によって鋭敏化が発生し、本来の耐食性が弱まる可能性があります。
私たちの簡易実験の塩水耐久テストでは、600℃で空冷したSUS304で錆の発生が認められています。
TIG溶接後の熱処理においても、600℃での応力除去焼鈍は高い再活性化率(鋭敏化度を示す数値)を示しました。

●溶接時の熱影響
溶接によって母材が約600℃~800℃の温度に加熱される領域(熱影響部)でも鋭敏化が発生し、溶接部周辺の耐食性が低下することがあります。

●不適切な焼鈍処理
市販されているSUS304の中には、焼鈍材に鋭敏化した組織が認められ、再活性化率が高いものも存在します。

一方、1025℃での固溶化処理は鋭敏化を抑制し、私たちの簡易実験の塩水耐久テストでも錆が発生しない結果が得られています。
また、400℃のような比較的低温での応力除去焼鈍も鋭敏化を抑制します。

私たちの別の実験では、鋭敏化したSUS304は、耐食性が低下するだけでなく、伸びや絞りといった機械的性質や破断面の様子にも変化が見られることがありました。
これは推測になるのですが、鋭敏化したオーステナイトステンレスがいったん腐食が進むと、その劣化スピードが鋭敏化していないものと比べて速くなる可能性もあると考えています。

したがって、SUS304の耐食性を維持するためには、約600℃~800℃の温度帯での加熱を極力避け、必要な場合は固溶化処理などの適切な熱処理を選択することが重要です。

 

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