金属熱処理 Q&A

 ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 析出硬化熱処理 / 硬さに関するお問い合わせ

私の勤めている会社に大気炉がありSUS630の析出硬化処理を行っています。 炉の置く場所によって硬さの差が出ているように感じています。簡単に炉内の温度分布を測定する方法はありますか?

まずSUS630の析出硬化処理について処理名と処理温度を書き出しておきますね。
処理名H900・・・処理温度480℃
処理名H1025・・・処理温度550℃
処理名H1075・・・処理温度580℃
処理名H1150・・・処理温度620℃


温度分布を確認する方法として、熱電対とロガーを使ってデータを取得する方法が一般的ですが、これには少し手間がかかりますよね。そこで、もう少し簡単に温度分布を推測できる方法を紹介します。

温度範囲も480~620℃のぐらいですので、以下に紹介する鋼の『焼戻し温度』と『焼戻し後の硬さ』を利用した「処理温度の推測」方法が使えます。

この方法は、実際に温度を測定するわけではなく、処理後の硬さから温度を推測するやり方です。

具体的には、焼入れしたテストピースを炉の各ポイントに置き、通常の析出硬化処理を行います。その後、テストピースの硬さを測定し、それを元に実際の処理温度を推測します。

あくまでも推測する方法ですが、まず最初に当たりを付けるためには簡単出来るので試す価値はあると思います。

▽ダウンロード 『焼戻し後の硬さ』を利用した簡易式『温度測定』

 

焼き戻し硬さから温度を推測するためのポイント


この方法を用いる際、以下のような条件を満たす鋼材を使用するのが理想です。

① 二次硬化がないもの


二次硬化がある鋼材だと、硬さの測定結果が二次硬化前なのか後なのかはっきりしない場合があり、温度を推測しづらくなります。

② 焼入れ性が良いもの


焼入れ性が不安定な材質では、焼入れ後や焼き戻し後の硬さにバラつきが出る可能性があり、温度推測が難しくなります。

③ 焼き戻し軟化抵抗が小さいもの

焼戻しの温度に敏感に反応する鋼材ほど、温度分布の把握がしやすくなります。

※具体的には、SK85、SK95、SK105あたりが適しています。

 

応用:窒化処理の温度推測にも活用


この方法は、窒化処理などで直接温度を測定しにくい場合にも応用できます。焼入れ後のSK製テストピースを一緒に処理することで、窒化処理の温度を推測することが可能です。また、炉内の有効加熱帯の確認にもこの方法は有効で、テストピースを置いておけば簡単に加熱帯の温度分布を把握することができます。

少し手間がかかる温度分布の測定も、この方法を使えば手軽にチェック可能です。毎月の点検や、温度分布の不安を感じた際にぜひ試してみてください。

ダウンロード 「窒化の前処理」が 寸法変化に与える影響

 

▽ダウンロード 『材料費の比較』と『熱処理対応』早見表
熱処理材料と価格

 

 



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