金属熱処理 Q&A
合金工具鋼(SKD11、SKS3など) / 機械構造用炭素鋼(S45Cなど) / 焼入れ / 焼戻し / 硬さに関するお問い合わせ
熱処理の『質量効果』について教えてください。

鋼を硬くするために一定の温度に加熱してから急冷します。(焼入れ)
この冷却過程で、鋼材の表面は内部よりも速く冷やされるという物理的な現象が生じます。
この表面と内部の冷却スピードの違いによって、形成される金属組織に差が生じ、結果として製品の内部と表面で得られる硬さに違いが生じることがあります。この現象を「質量効果」と呼んでいます。
質量効果の影響の度合いは、使用する鋼種の特性と製品のサイズ(体積)によって大きく変わってきます。
具体的には、焼入れ性が低い鋼種であるほど、そして製品の体積が大きくなるほど、質量効果の影響を受けやすくなります。
これは、焼入れ性の低い鋼で顕著に表れます。
焼入れ性の低い鋼は、内部まで硬い組織であるマルテンサイトに変化させるにはできるだけ早く冷却させる必要があります。そのため、部材の体積が大きくなるほど中心部を十分な速度で冷却することが難しくなってしまいます。
武藤工業ではSKD11、SKS3、S50Cという3種類の鋼種について、サイズの異なる複数の試験片(25x25x25mm、25x25x50mm、50x50x50mm、75x75x75mm)を用いて質量効果を比較した実験を行いました。
熱処理後に各試験片の表面硬さを測定し、半分に切断した断面の中心部にかけての硬さの変化や組織観察を行っています。
この実験の結果、サンプルサイズが大きくなるにつれて、鋼種による硬さの変化に違いが見られました。例えば、最も大きい75x75x75mmのサンプルでは:
- SKD11は、表面と中心で組織の違いがほとんどなく、硬度もほとんど変わらず高い硬さを維持しました。これはSKD11が焼入れ性の良い鋼種であることを示唆しています。
- SKS3は、表面と中心で組織の違いはあまりありませんでしたが、硬さはわずかに低下が認められました。
- S50Cは、表面と中心で組織に大きな違いが見られ、硬さも著しい低下が認められました。これはS50Cが比較的焼入れ性が低い炭素鋼であり、質量効果の影響を大きく受けたことを示しています。
このように、質量効果は鋼材の内部まで狙い通りの組織と硬さを得る上で考慮が必要な重要な現象であり、部品の素材選びや熱処理条件を決定する際に、その鋼種の焼入れ性と製品のサイズを十分に考慮する必要があります。
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