金属熱処理 Q&A
ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 材質別に関するお問い合わせ
ステンレスSUS329J4Lの固溶化処理を依頼されました。二相ステンレスという種類に属するとのこと。二相ステンレスについてザックリ教えてください。

【二相ステンレス鋼とは】
二相(にそう)ステンレス鋼、またの名をデュプレックスステンレスは、2つの種類の金属組織(オーステナイト相とフェライト相)が半分ずつ混ざっているステンレス鋼です。
2種類のステンレスのいいとこどりして、さびにくくて強いという性質があります。
海の近くや薬品を使う場所で役立つ素材です。
【SUS304やSUS316との違い】
さびにくさ(耐食性):
SUS316Lよりも上。特に塩分や応力でひびが入りにくい(応力腐食割れ=Stress Corrosion Crackingに強い、SCCと言ったりします)。強さ(強度):
SUS304の2倍くらい。鋼の熱処理を学んだ私たちからするとフェライト相は鉄鋼では「やわらかい」イメージがどうしてもあります。しかし、フェライト系ステンレス鋼は実際にはある程度の強度があり、二相ステンレス鋼ではさらにクロムやモリブデンなどの合金元素を多く含むことで、より高強度になります。だから薄くして軽量化を図ることもできるようです。価格:
少し高いけど、長持ちして交換や修理が少なくなるから、結果的に安くすむ、という考えも成り立ちますよね。溶接のしやすさ:溶接には専用の材料と、熱の加え方の工夫が必要です。
【よく使われる鋼種】
SUS329J1:いろんな場面で使える。SUS316Lと同じかそれ以上の耐食性。
SUS329J4L:海水にも負けない。とてもさびにくい。
【熱処理】
加熱(1000〜1100℃)してから一気に冷ますことで、金属の中のバランスを整えます(これを固溶化処理といいます)。
これはSUS304やSUS316でも行われる処理で、金属の性能を安定させたり、さびにくくしたりします。
特に二相ステンレス鋼では、「σ相」や「475℃脆化」といった問題を防ぐ意味でも大切です。
【加工や溶接のときに気をつけること】
加工硬化しやすいので、曲げるときはちょっとゆるめに。
切削は、ゆっくり切って油をしっかり使う。
溶接するときは、材料のバランスが崩れないように熱の加え方や材料選びに注意が必要です。
これらの注意点は、SUS304やSUS316でも当てはまります。ただし、二相ステンレス鋼はより高強度で加工硬化しやすいため、より慎重な取り扱いが必要になることがあります。
値段とトータルコストの考え方
最初の材料代は高いけど、軽く作れるし長持ちするから、全体としてはお得になることがあります。修理や交換が少なくてすむのも大きなメリットです。
【どんなところで使われている】
海の近くの配管や、薬品を扱う工場、上下水処理の設備、橋など。
さびやすい環境で、強くて長持ちする材料が必要なときに使われます。
【SUS304から置き換えるときのポイント】
板の厚みを調整して、重くしすぎないように設計を見直す。
加工や溶接のやり方を再確認。
使用温度や磁石にくっつくかどうかなどの条件もチェック。
<補足>強度とは
強度とは「どれくらいの力に耐えられるか」を表す性質です。主に次の2つがあります:
引張強さ(Tensile Strength):材料が引っ張られて切れるまでに耐えられる最大の力。
耐力(Yield Strength):元の形に戻らずに変形しはじめる力の大きさ。
設計では「耐力」がよく使われます。安全で軽い構造を考えるとき、どこまで力に耐えられるか=変形を始める力がとても大事です。
強度の比較(代表的なステンレス鋼)
鋼種 | 系統 | 引張強さ (MPa) | 耐力 (MPa) | 備考 |
---|---|---|---|---|
SUS304 | オーステナイト系 | 約520以上 | 約205以上 | 加工性が良く、広く使われている |
SUS430 | フェライト系 | 約450以上 | 約280以上 | 安価で磁性あり、ややさびやすい |
SUS329J1 | 二相ステンレス | 約620以上 | 約450以上 | 高強度で、腐食にも強い |
SUS329J4L | スーパー二相鋼 | 約750以上 | 約550以上 | 海水でも使えるほどの高耐食性 |
※ポイント:二相ステンレス鋼は「耐力」が高いのが特長です。だから薄く・軽く・丈夫に設計できます。
<補足> σ相・475℃脆化・鋭敏化の説明
● σ相(シグマそう)は、700〜900℃でゆっくり冷やすとできる金属化合物で、材料がもろくなりさびやすくなります。
二相ステンレス鋼で特に注意が必要ですが、SUS304やSUS316でも高温に長くさらされると発生することがあります。
●475℃脆化は、250〜550℃で長時間放置するとフェライト相が変化し、割れやすくなります。
二相鋼やフェライト系で問題になりますが、SUS304やSUS316ではあまり起きません。
●鋭敏化は、500〜800℃に加熱されるとクロムが減って、さびやすくなる現象で、オーステナイト系でよく見られます。
→ どれも材料を弱くする原因ですが、起こる温度や仕組みが違うので、使い方に応じた対策が大切です。
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