金属熱処理 Q&A
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インコネル718の熱処理とは?固溶化・時効硬化の条件・硬さ・AM材の注意点【完全ガイド】
結論から:インコネル718(NCF718 / IN718 / UNS N07718)は、焼入れではなく「固溶化処理+時効硬化処理」の2段階で強くする析出硬化型ニッケル基合金です。標準的にはAMS規格に基づき、固溶化処理(927〜1010℃・急冷)で20〜25HRC程度に整えてから、時効硬化処理(718℃×8時間→炉冷→621℃×10時間・合計18時間)で40±3HRC程度まで硬さを高めます。ただし積層造形材(AM材)は、同じ条件でも同じ結果になるとは限りません——本ページで順に解説します。
監修:東京都立大学 筧 幸次 教授
こんな状況ではありませんか
- 図面に「インコネル718・AMS5663」と指定されたが、何をする処理なのか根拠から確認したい
- 「NCF718」「IN718」「Inco718」——表記がバラバラで同じ材料か不安
- 時効硬化処理後の硬さが何HRCになるのか知りたい
- 金属3Dプリント(AM)で造形したインコネル718の熱処理をどこに頼めばいいか分からない
このページは、こうした疑問に「規格の数値」と「現場の注意点」の両方から答える完全ガイドです。
インコネル718とはどんな材料ですか?
インコネル718は、ニッケルを主成分にクロム・鉄・ニオブなどを含む析出硬化型のニッケル基合金です。高温でも強度が落ちにくいため、航空機エンジン部品・ガスタービン・ロケット部品など、過酷な高温・高応力環境の定番材料として使われています。
呼び方の整理(詳しくはインコネル718の呼び方と相談時の注意点へ):
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| インコネル718 / Inconel 718 | 日本語・英語での一般的な呼び方(Special Metals社の商標) |
| IN718 / Inco718 | 図面や社内資料での略記 |
| NCF718 | JISでの相当材記号(N=ニッケル、C=クロム、F=鉄) |
| UNS N07718 / Alloy 718 | 規格上の材料番号・一般名 |
※表記が似ていても、熱処理条件は材料証明書(ミルシート)と規格指定で確認するのが原則です。
主な成分(UNS N07718の規格範囲)
| 元素 | 含有量(%) | 熱処理での役割 |
|---|---|---|
| ニッケル(Ni) | 50〜55 | 母相(土台) |
| クロム(Cr) | 17〜21 | 耐食性・耐酸化性 |
| 鉄(Fe) | 残部 | Niの一部を置換 |
| ニオブ(Nb) | 4.75〜5.50 | 時効硬化の主役(最重要) |
| モリブデン(Mo) | 2.8〜3.3 | 固溶強化・耐食 |
| チタン(Ti) | 0.65〜1.15 | 析出硬化を補助 |
| アルミニウム(Al) | 0.20〜0.80 | 同上・耐酸化 |
なぜ熱処理で強くなるのですか?(焼入れとの違い)
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鋼の焼入れ(マルテンサイト変態)とは仕組みがまったく違います。インコネル718は:
- 固溶化処理:高温で強化元素(ニオブ等)を母相に溶かし込み、組織を一度リセットする(この状態では軟らかい)
- 時効硬化処理:それより低い温度で長時間保持し、金属の内部にナノサイズの析出物(γ”相=Ni₃Nb)を生やして硬く・強くする
つまり「軟らかい状態で機械加工し、最後に時効硬化で強くする」という段取りが組める材料です。ニオブによる析出はゆっくり進むため、溶接性が良いのも718が広く使われる理由のひとつです。
標準の熱処理条件は?(AMS5662・AMS5663・JIS)
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① 固溶化処理(AMS5662)
- 927〜1010℃で加熱保持後、急冷
- この状態では比較的軟らかく、20〜25HRC程度
- 機械加工はこの状態で行うのが一般的です
② 時効硬化処理(AMS5663)
- 718℃で8時間保持 → 621℃まで炉冷 → 621℃で10時間保持(時効硬化処理の合計時間は18時間)
- この処理により硬さが向上し、40±3HRC程度になります
JISにも参考記載があります(JIS G 4901)
JISではインコネル718相当品がNCF718とされ、JIS G 4901の附属書表1に参考条件が掲げられています:
- 固溶化処理:925〜1010℃ 急冷
- 時効硬化処理:705〜730℃に8時間保持 → 610〜630℃まで炉冷 → その温度で時効後空冷(総時効時間18時間)
※ただし附属書には「この附属書は参考であり、規定の一部ではない」旨が付記されています。実際の処理条件は、図面・規格指定・材料証明書に基づいて決定します。
熱処理後の硬さはどう確認しますか?
硬さは「素材状態」「処理履歴」「規格条件」で変わります。確認のポイント:
| 項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 素材状態 | 固溶化処理前後・時効硬化処理前後で硬さが大きく違うため(20〜25HRC → 40±3HRC) |
| 規格条件 | AMS・JIS・社内規格で要求が異なるため |
| 測定方法 | HRC・HVなど測定方法で見方が変わるため |
| 測定位置 | 形状・肉厚により表面/断面/代表点の指定が必要なため |
| AM材かどうか | 造形条件や残留応力が結果に影響しうるため |
高温環境や重要部品では、硬さだけでなく引張試験・組織観察などの検査項目まで決めてから処理に入るのが安全です。
積層造形材(AM材)の熱処理はどこが違いますか?
インコネル718のAM材(金属3Dプリント造形品)は、従来製造法材(C&W材)と同じ熱処理条件でも、同じ結果になるとは限りません。 造形条件・造形方向・内部欠陥・残留応力・サポート除去状態などが熱処理後の結果に影響するためです。
このため、AM材では従来のやり方が最善かどうか、検証を要求される場合があります(引張試験・クリープ試験・破断面観察・組織観察など)。
武藤工業では東京都立大学とインコネルの積層造形品に関する共同研究を行っており、熱処理をご依頼いただいた製品についての検証のご相談にも対応できます。AM材の場合は、造形方法・造形条件・造形後の状態・必要な検査項目まで合わせてお伝えいただくと、可否判断と工程検討がスムーズです。
よくある質問(FAQ)
Q1. インコネル718は磁石に付きますか?(磁性)
標準的な焼鈍・時効状態のインコネル718は、室温での比透磁率が約1.001(メーカー公表値)と真空の「1」に極めて近く、一般的な強磁性鋼のように磁石に強く吸着することは通常ありません(室温では弱い常磁性)。冷間加工で顕著に磁性化するという報告も見られません。ただし極低温(液体水素温度域など)では特殊な磁気挙動が報告されているため、高感度機器や極低温用途では実材での確認をおすすめします。
Q2. 何℃まで使えますか?(耐熱温度)
強度・クリープ性能を重視する部品では、おおむね650〜700℃が実用の目安です(メーカーにより1200°F=650℃、1300°F=704℃と表現が分かれます)。約650℃を超えると主強化相γ”が不安定になることが理由です。耐酸化性だけであれば約1000℃まで「良好」とする資料もありますが、これは荷重を受ける部品の許容温度ではありません。実際の使用可否は応力・保持時間・雰囲気・要求寿命によるため、用途を添えてご相談ください。
Q3. SUS(ステンレス)とはどう違いますか?
SUSは鉄基、インコネル718はニッケル基で、高温での強度保持力が大きく異なります。詳しくはインコネル718とSUSの違いをご覧ください。
Q4. 納期はどのくらいですか?
インコネル718の熱処理は、時効硬化処理だけで合計18時間を要する長時間の処理です。処理量・処理条件・炉の稼働状況によって納期が変わるため、事前のお打ち合わせをお願いしています。参考のモデルケースは納期のご案内で公開していますが、まずは図面・数量・ご希望時期を添えてご相談ください。
Q5. AM材(3Dプリント品)も従来材と同じ条件で処理していいですか?
同じ条件でも同じ結果になるとは限りません(上の「AM材の熱処理」参照)。検証方法も含めてご相談いただくのが安全です。
武藤工業のインコネル718熱処理対応
- 真空炉によるインコネル718の固溶化処理・時効硬化処理に対応
- 3拠点対応:神奈川(本社・大和市)/岩手(東北事業所・北上市)/静岡(東海事業所・富士市)——納期対応可能な事業所で柔軟に調整します
- 東京都立大学との共同研究:インコネル積層造形品に関する共同研究を実施。AM材の熱処理と検証のご相談に対応
- 小ロット・試作のご相談も歓迎:数量・サイズ・希望納期を添えてご相談ください
インコネル718の処理は、いずれの事業所での対応でも本社が窓口となって調整します。
ご相談・お見積り
図面・材質(材料証明書)・数量・要求特性が分かる場合は、お問い合わせフォームからお送りいただくと社内で情報共有ができ、お見積もり・納期回答がスムーズです。
出典・根拠:AMS5662/AMS5663(本文中の処理条件・硬さ)、JIS G 4901 附属書表1(参考条件)、UNS N07718 規格範囲(成分表)、Special Metals「INCONEL alloy 718」データシートSMC-045・VDM Alloy 718データシート・Haynes 718資料(FAQの磁気特性・使用温度)、武藤工業「熱処理研究室」公開Q&A・納期モデルケース、東京都立大学との共同研究(積層造形品の熱処理検証)。
「熱処理研究室」は、金属熱処理専門の武藤工業株式会社が運営しています。各種熱処理、熱処理を含む小ロットの加工案件などご相談ください。
お問い合わせ・お見積りはこちらから。
営業エリア:神奈川、静岡、岩手、東京、埼玉、山梨、青森、秋田、宮城、山形、福島など

































