金属熱処理 Q&A

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インコネル718とSUS・ハステロイの違いとは?材料の見分け方と熱処理相談のポイント【比較ガイド】

結論 インコネル718は、耐熱性や高温強度が必要な用途で選ばれるニッケル基合金です。SUS304やSUS316のような一般的なステンレス鋼、ハステロイのような耐食合金とは、主成分、強化の仕組み、熱処理で狙う特性が異なります。

熱処理相談では、SUSより強い材料と大きく捉えるだけでなく、材質規格、使用温度、要求強度、処理後の検査項目まで確認することが重要です。

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結論から:3つの材料は「何が主成分か」と「熱処理で何を狙うか」で見分けられます。SUSは鉄が主成分のステンレス鋼INCONEL alloy 718(UNS N07718)はニッケル基で、固溶化+時効硬化により”硬く・強くする”材料(約650〜700℃の高温域まで高強度を狙える)。HASTELLOY合金もニッケル基ですが、耐食系の多くは熱処理で硬くならず、溶体化+急冷で”耐食性と延性を回復させる”のが目的です。名前の印象で選ぶと熱処理条件を間違えるため、材料証明書(ミルシート)とグレード名・UNS番号での確認が原則です。

執筆:武藤工業株式会社 企画開発部 部長 特級金属熱処理技能士 中村正美
監修:東京都立大学 筧 幸次 教授

こんな状況ではありませんか

  • 図面の材質が「インコネル」とだけ書かれていて、SUSやハステロイと何が違うのか説明できるようにしたい
  • SUSからインコネル718への置き換え(またはその逆)を検討している
  • 「ハステロイです」と言われたが、どのグレードか分からないまま熱処理を相談されて困っている
  • 呼び名が似ている「インコロイ」との違いも気になっている

まず全体像:3つの材料の位置づけ早見表

SUS(ステンレス鋼) INCONEL alloy 718 HASTELLOY合金(C-276等の耐食系)
主成分 ニッケル(Ni-Fe-Cr系) ニッケル(Ni-Cr-Mo系ほか)
得意分野 汎用の耐食・コストバランス 高温・高応力(約650〜700℃まで高強度) 過酷な腐食環境(薬品・酸)
強化の仕組み 鋼種による(SUS304/316は冷間加工、SUS630は析出硬化) 析出硬化(時効でナノ析出物γ”を生成) 固溶強化が中心(耐食系の多くは熱処理で硬化しない)
熱処理の主目的 鋼種による 硬く・強くする(固溶化+時効) 耐食性・延性の回復(溶体化+急冷)※C-22HSは時効硬化型
代表的な用途 幅広い一般部品 ジェットエンジン・ガスタービン・ロケット 化学プラント・排煙脱硫・半導体製造装置

※どの材料も「名前」だけでは熱処理条件を決められません。規格・グレード・材料証明書で確認します。

SUS304/316・SUS630(17-4PH)・インコネル718・ハステロイC-276等の位置づけを、使える温度の目安(横軸)と耐食性(縦軸)で示した模式図

(画像をクリック/タップすると拡大表示できます)

インコネル718とはどんな材料ですか?

高温・高応力・腐食性の環境下で性能を発揮するニッケル基超合金です。組成はニッケル50〜55%・クロム17〜21%・鉄17〜21%・ニオブ4.75〜5.5%など。固溶化処理と時効(析出硬化)処理により、ニッケルとニオブの微細な化合物(γ”相=Ni₃Nb)を生成して硬くなり、高温域でも強度を維持します。

熱処理条件やAM材(金属3Dプリント)の注意点は、インコネル718の熱処理 完全ガイドにまとめています。

※注意:時効の温度管理が不適切だと、同じNi₃Nbでも粗大なδ相として析出し、かえって脆くなるリスクがあります(析出硬化は厳密な温度管理が前提です)。

SUSとの違いは?(境界線は「温度」)

  • SUS304・SUS316などの一般的なオーステナイト系ステンレスは、温度上昇とともに強度が低下します。急激に落ちる境目があるわけではなく連続的に下がり、約538℃以上の長時間使用ではクリープ特性の評価が重要になります
  • また、約427〜816℃の温度域に滞留した履歴があると、クロム炭化物の析出による鋭敏化(粒界腐食の原因)が問題になることがあります
  • SUS304/316は通常の熱処理では硬化できません(析出硬化に必要な化合物を作れない組成のため。強度向上は主に冷間加工によります)
  • SUS310Sなどの耐熱ステンレスは高温での耐酸化性を主目的とする材料です。700℃を超える長時間使用では、短時間の引張強さだけでなくクリープ・応力破断特性で比較する必要があります
  • SUS630(17-4PH)の使用温度の目安は、おおむね300〜316℃です。メーカー資料やASTM A564では、H900〜H1150といった時効条件ごとに上限を分けてはいません(一律の目安として示されています)。国内でも、発電用火力設備の技術基準の解釈ではSUS630(H1150)の許容引張応力が325℃までとされています
  • ただし実際の高温安定性は時効条件と曝露時間で変わります300〜400℃の長時間曝露では、熱時効による靭性低下(脆化)の報告があり、H1150でも安定とは限りません。上限付近やそれ以上での使用を計画する場合は、要求強度・靭性・使用環境を含めた個別評価をおすすめします

つまり「300℃前後まではSUS630も有力な選択肢、650℃級の高温強度が要ればインコネル718」が大まかな目安です(最終判断は応力・環境・寿命によります)。

出典(SUS630の温度):ATI 17-4 データシート/Sandmeyer Steel 17-4PH 仕様書/ASTM A564-25 Scope/経済産業省「発電用火力設備の技術基準の解釈」別表第1-1(SUS630 H1150の許容引張応力)/熱時効脆化に関する公表研究

ハステロイとの違いは?(同じNi基でも「熱処理の目的」が違う)

HASTELLOYはHaynes International社の商標で、耐食用の合金群(C-276・C-22・B-3など)と、高温用の合金(HASTELLOY X など)の両方を含みます。ここでは相談の多い耐食系とインコネル718を比べます。

観点 INCONEL alloy 718 HASTELLOY C-276等(耐食系)
熱処理の目的 強度を出す(固溶化+時効の2段) 耐食性・延性の回復(溶体化+急冷)
熱処理で硬くなる? なる(時効後の代表値40±3HRC程度) 耐食系の多くはならない(固溶強化型)。ただしC-22HSは時効硬化型
溶体化の温度帯 約950〜1010℃(メーカー資料の一般例) グレードにより1066〜1177℃に分布(C-276は1121℃)
冷却 空冷(時効は炉冷を含む) 急速冷却が必要。C-276は水冷推奨だが厚さ10mm未満なら急速空冷も可
相談の入口 高温強度・時効硬化 腐食環境・薬品環境

一言でいうと「718は強くするための熱処理、耐食系ハステロイは腐食に強い状態へ戻すための熱処理」です。急速冷却が必要なのは、冷却中の析出物生成を抑えて耐食性と延性を確保するためです。

ハステロイは「グレード名」までの確認が必須です。B系(還元性環境向け)・C系(幅広い腐食環境向け:C-276、C-22など)・G系(リン酸)・X(高温用)と、グレードで性格が大きく違います。「ハステロイです」だけでは熱処理条件も可否も決められないため、正式なグレード名・UNS番号・ミルシートを添えてご相談ください。

熱処理を相談するときのチェックリスト(3材料共通)

  1. 正式な材質名・グレード名・規格番号(相当材・UNS番号があればそれも)
  2. 材料証明書(ミルシート)
  3. 図面(または形状・寸法)・数量
  4. 素材の状態(圧延・鍛造・AM材など。AM材は特に要申告)
  5. 使用環境(温度・雰囲気・応力)
  6. 希望する処理と要求特性(硬さ・強度・耐食性)・検査項目
  7. 希望納期(置き換え検討の場合はその旨も)

よくある質問(FAQ)

Q1. インコロイとはどう違いますか?

INCOLOYとINCONELは、いずれもSpecial Metals Corporationグループの商標で、JISやUNSのような材料分類名ではありません。INCOLOYには鉄を比較的多く含むグレードが多く、たとえばalloy 800(UNS N08800)はFe-Ni-Cr系の合金です。一方、本稿で扱うINCONEL alloy 718(UNS N07718)はニッケルを主成分とする析出硬化型合金です。 ただし、商標名だけでは組成・耐熱性・耐食性・熱処理条件は判断できません。図面やミルシートに記載されたグレード、UNS番号、適用規格をご確認ください。

Q2. SUS630(17-4PH)とインコネル718は、どちらも「析出硬化型」ですよね。何が違うのですか?

強化の仕組みは同系統ですが、高強度を維持できる温度域が違います。SUS630の使用温度の目安はおおむね300〜316℃、インコネル718は約650〜700℃までの高温用途に用いられます。常温〜中温域ではSUS630の方が経済的な場合も多く、使用温度が選定の分かれ目です(SUS630を300℃前後で長時間使う計画の場合は、熱時効による靭性低下の評価もあわせてご検討ください)。

Q3. ハステロイを硬くする熱処理はできますか?

耐食系の多くのグレードでは、炭素鋼のような焼入れ硬化や通常の時効硬化は行いません(固溶強化型のため)。ただしC-22HSは時効硬化型です。「硬くしたい」というご要望の場合は、グレードの確認、または材料選定からのご相談になります。

Q4. 磁石に付くかどうかで見分けられますか?

目安にはなりますが確実ではありません。インコネル718は室温でほぼ磁石に付きません(詳しくは完全ガイドのFAQへ)。SUSは鋼種や加工状態によって磁性が変わるため、見分けは材料証明書で行うのが原則です。

Q5. 材料がどれか分からないまま相談してもいいですか?

はい。分かる範囲の情報(図面・入手経緯・使用環境)を添えていただければ、確認すべき事項からご案内します。

武藤工業の対応

  • インコネル718:真空炉による固溶化処理・時効硬化処理(詳細はインコネル718の熱処理 完全ガイド
  • ハステロイ:グレード・目的・要求特性を確認のうえ対応可否をご案内(グレード名の確認からで大丈夫です)
  • SUS各種:固溶化・析出硬化(SUS630等)・サブゼロほか各種熱処理に対応
  • 3拠点対応:神奈川(本社・大和市)/岩手(東北事業所・北上市)/静岡(東海事業所・富士市)
  • 3D造形(AM)材の熱処理:金属3Dプリントのインコネル718・17-4PHについては、東京都立大学(筧幸次教授)との共同研究に基づき、熱処理と検証のご相談に対応

ご相談・お見積り

材質名(分かる範囲で)・図面・数量・使用環境を添えてお送りいただくと、確認事項からスムーズにご案内できます。

インコネル718の熱処理を相談する(お問い合わせフォーム)

▶ インコネル718専用ページで対応範囲・納期目安を見る


出典・根拠:ATI Alloy 718/17-4PH/304/316/310S 各データシート(強度・温度域)、Haynes International 熱処理ガイド・HASTELLOY C-276/C-22HS 資料(溶体化温度・冷却・時効硬化型グレード)、Special Metals INCOLOY alloy 800 資料(成分)、UNS N07718 規格範囲、武藤工業「熱処理研究室」公開Q&A、東京都立大学との共同研究(AM材)。

INCONEL および INCOLOY は Special Metals Corporation グループの商標です。HASTELLOY は Haynes International, Inc. の商標です。



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