金属熱処理 Q&A

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インコネル718の積層造形品で、硬さや機械的特性がばらつくのはなぜですか?

いちばんの理由は、金属3Dプリンター(積層造形, AM)特有の「急速な加熱と冷却」によって組織が不均一になりやすく、しかも造形後の熱処理しだいで特性が大きく変わるためです。

代表的な造形方式である『LPBF(レーザー粉末床溶融)』——レーザーで金属の粉を一層ずつ溶かして固める方式——では、ごく小さな溶融池が一瞬で固まります。
この急冷の繰り返しによって、部品の内部に『残留応力』(加工後に内部に残ったままになっている力)がたまり、結晶や成分の並びが造形方向にそろう『異方性』(向きによって性質が変わる状態)も生まれます。
さらに、固まるときに成分が偏る『組成偏析』も起こります。これらは部位ごと・方向ごとに、硬さや強さの差を生みます。

加えてインコネル718では、後処理の温度や時間によって『δ相(デルタそう)』——Nb(ニオブ)を多く含むNi₃Nbという析出物——の出方が変わり、これが特性を左右します。このばらつきは、固溶化処理の温度や時間でも大きく動きます。鍛造材で確立された条件をそのまま当てても、AM材は熱処理を始める前の組織がそもそも違います。
造形時の急冷で成分の偏りや弱点になりやすい析出物が残るため、ねらった特性が安定して出にくいのです。

実務でばらつきを切り分けるときは、硬さだけを1点で見るのではなく、次の3つをセットで確認するのが有効です。

  • 部位と方向: 造形品の上部・中央・下部、肉厚部・薄肉部、サポート近傍などで硬さを測り、必要に応じて造形方向に平行な試験片と直角な試験片で引張特性を比べます。
  • 造形と熱処理の履歴: レーザー出力、走査速度、スキャンストラテジ、層厚、粉末ロットに加えて、応力除去、固溶化温度、保持時間、冷却条件、時効条件をロットごとにひもづけて確認します。
  • 組織と欠陥: 断面観察やSEM-EDS、EBSDなどで、柱状粒の向き、組成偏析、δ相やLaves相(Nbなどが濃く集まってできる脆い相)、空孔の残り方を見ます。残留応力が疑わしい場合は、切り離し後の反りや寸法変化、X線回折などの評価も手がかりになります。

硬さはスクリーニングには便利ですが、インコネル718では硬さがそろっていても、延性・疲労特性・クリープ寿命までそろうとは限りません。
重要部品では、硬さだけで熱処理条件の良否を決めず、方向別の機械試験や必要な高温試験まで含めて確認することが大切です。
また、熱処理条件を変える場合は、規格・顧客承認の範囲を確認し、まずは試験片で再評価してから部品へ展開するのが安全です。

ただし、これは「鍛造材向けの条件をすべて捨てて、ゼロから熱処理条件を作る」という意味ではありません。実務では、まず鍛造材向けの条件や既存のAM向け条件を出発点にし、試験片で硬さ、造形方向別の引張特性、断面組織、必要に応じて疲労・クリープ特性を確認しながら、応力除去、固溶化温度、保持時間、冷却条件、時効条件を少しずつ絞り込むのが現実的です。

つまり「同じ材料でも、造形条件と熱処理条件しだいで結果が変わりやすい」のがAM材の難しさです。
ばらつきを抑えるには、鍛造材の常識をそのまま当てはめるのではなく、既存条件を出発点にしながら、AM材で実際に出る組織と特性を確認し、用途に合わせて検証済みの条件へ近づけていくことが重要です。

監修:東京都立大学 教授 筧 幸次



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