金属熱処理 Q&A
ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 析出硬化熱処理 / 真空熱処理 / 硬さに関するお問い合わせ
SUS630の析出硬化処理で、温度や保持時間を変えると硬さはどう変化しますか? 規格外の条件でも知りたいです。

SUS630の析出硬化処理は、この鋼材の特性を最大限に引き出すための重要な熱処理です。
SUS630は、オーステナイト系やマルテンサイト系などとは異なる析出硬化系ステンレス鋼に分類されます。
この鋼種によく行われる熱処理の一つが「析出硬化処理」であり、その主な目的は、SUS630をさらに硬くすることにあります。
析出硬化処理は、JIS規格(JIS G4303)によって処理温度が規定されており、一般的には480℃から620℃の範囲で行われます。
この処理温度によって得られる硬さが異なり、JIS規格ではH900、H1025、H1075、H1150といった処理名が定められています。
それぞれの処理名に対応する規定の熱処理条件と最低硬さが定められています。
例えば、H900処理は480℃±10℃の処理で40HRC以上の硬さが得られるとされています。
同様に、H1025は550℃±10℃で35HRC以上、H1075は580℃±10℃で31HRC以上、H1150は620℃±10℃で28HRC以上が目安となります。
当社の実験結果では、JIS規格の範囲内である470℃から630℃の処理温度においては、硬さの値がほぼ直線的に変化することが観察されました。
ただし、規格範囲外の温度、例えば470℃未満や630℃を超える温度で処理を行うと、硬さの値に変化が見られました。
また、析出硬化処理における保持時間についても、H900(480℃)とH1025(550℃)の処理で1時間から8時間まで変化させて硬さを測定した実験を行いました。
この実験結果からは、保持時間を1時間から8時間の範囲で変化させても、著しい硬さの変化は認められませんでした。
今回の実験は弊社が用意したφ10×10 mm試験片での結果です。
大物ワークでは温度ムラなどで挙動が変わる可能性があるため、実ワークサイズでの確認をお勧めします。
今回の実験条件(480℃・550℃、1~8時間)は硬さが飽和する領域にあり、過時効が起きる前の安定域に留まってた可能性があります。
過時効を評価するには、保持時間を10時間以上、または600℃前後で延長試験を行うと結果が異なる可能性があります。
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