金属熱処理 Q&A
ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 固溶化熱処理 / 応力除去焼鈍 / 真空熱処理に関するお問い合わせ
オーステナイトステンレス(SUS304やSUS316など)の鋭敏化は機械的性質に影響するのでしょうか

SUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼において「鋭敏化」が発生すると、どのように機械的性質が変化するのか弊社で実験しました。
SUS304の鋭敏化は、本来備わっている耐食性を弱める現象ですが、鋭敏化した材料と固溶化処理した材料で機械的性質がどのように違うかを比較するために引張試験が行いました。
様々な熱処理温度(850℃から1180℃まで8種類)で処理された試験片が使用され、強度(0.2%耐力、UTS)、破断伸び、絞り、および破断面の観察を行いました。
引張試験の結果、強度(0.2%耐力、UTS)については、鋭敏化しても大きな変化は認められませんでした。
しかし、破断伸びと絞りは、1000℃以下の処理温度(鋭敏化が発生しやすい温度帯)で徐々に低下する傾向が見られました。
これは、材料の延性(粘り強さや変形能力)が鋭敏化によって損なわれる可能性を示唆しています。
さらに注目すべきは、破断面の様相が、固溶化処理したものと鋭敏化したものでは肉眼でもはっきり分かるほど全く違ったという点です。
マイクロスコープで観察すると、鋭敏化したものにはひび割れが見られましたが、固溶化処理したものにはそのようなひび割れはありませんでした。
SEMで詳細に観察すると、破断面の「キメの細かさ」にも違いがあることが確認されています。
これらの破断面の違いは、材料が破壊に至るメカニズムや挙動が、鋭敏化によって変化していることを示していると考えております。
私共では、この実験を通して鋭敏化したものは、JISで定められた機械的性質を満たしていたとしても、いったん腐食が進むと、その性質が著しく早いスピードで劣化していくのではないかと推測しています。(これを裏付ける実験は、行っていないので推測としております)
したがって、鋭敏化は、直接的な強度低下はわずかであっても、破断伸びや絞りといった延性に関わる性質を低下させる可能性があり、破壊挙動にも影響を与ええる可能性があり、さらに耐食性低下と相まって長期的な機械的性能の劣化を招くリスクがあると考えています。
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