金属熱処理 Q&A
ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 固溶化熱処理 / 焼入れ / 焼戻し / 真空熱処理 / 硬さ / 窒化処理に関するお問い合わせ
SUS304の硬さを上げるにはどうすれば良いですか?

まず最初に押さえておきたいポイントがあります。
SUS304 はオーステナイト系ステンレス のため、 焼入れ・焼戻しによるマルテンサイト化が起こらないことから、熱処理(焼入焼戻し)では『全体』を硬くできません。
硬さの要求レベルと部品の機能を整理し、「全体を硬くしたいのか」「表面だけでよいのか」で対策を分けて考えるとスッキリします。
① 部品“全体”を硬くしたい場合
●加工硬化(冷間圧延・引き抜き・曲げなど)
【メリット】
・SUS304 のまま硬度を上げられる
・追加設備が少ない(加工時に対応)
【留意点】
・加工後 HV180▶HV250 以上へ上昇可
・延性が低下し成形後の割れリスク増大
・厚肉品では内部まで均一硬化しにくい
●他のステンレスに材質変更
【メリット】
・焼入れ・時効処理で硬さアップ
・全体ほぼ均一に硬さアップ
SUS420J2・・・HRC53程度
SUS440C・・・HRC58程度
SUS630・・・HRC40~(H900処理)
※硬さは参考値
【留意点】
・耐食性、磁性の変化を要確認
・熱処理ひずみ・変寸対策が必要
実務上の武藤工業の考え方
SUS304 のまま 全体的に400HV 以上を狙うのは現実的でないため、要求が高硬度・高耐摩耗なら早期に材質変更を検討することが現実的です。
② “表面だけ”硬くすれば良い場合
窒化処理があります。表面数ミクロンの硬化層、処理温度によっては耐食性の低下の恐れ(鋭敏化)
まとめ
全体硬化が必須 ➡ 加工硬化で対応できる範囲を見極め、足りなければマルテンサイト系・析出硬化系ステンレスへ材質変更。
表面硬化で十分 ➡ SUS304 のまま低温窒化で高硬度層を付与し、母材の耐食性・延性を維持する。
いずれの方法も、要求性・後工程との整合性を事前に確認する必要があります。
参考
磁性をかんたん比較(現場では「磁石につく/つかない」で簡易チェック)
ステンレス鋼種 | 処理前 | 処理後 | 変わるポイント |
マルテンサイト系(SUS420 など) | もともと磁石にしっかりくっつく | 焼入れ・焼戻し後もほぼ同じ。焼戻しでわずかに弱まることあり | 元から磁性が強いので大きな変化はない |
析出硬化系 SUS630 (17‑4PH) | 溶体化後:磁石にくっつくが少し弱め | 時効処理(H900 など)後:磁力がややアップ | 残留オーステナイトが減り磁性が強まる |
オーステナイト系 SUS304 | 固溶化後:ほぼ非磁性(磁石につかない) | 冷間加工で加工誘起マルテンサイトが出ると磁石につくようになる | 加工率が高いほど磁性アップ。固溶化処理をすると元に戻る |
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