金属熱処理 Q&A

 ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 固溶化熱処理 / 焼入れ / 真空熱処理 / 硬さに関するお問い合わせ

SUS304はなぜ熱処理で硬くならないのですか?

結論から言えば、SUS304は通常の焼入れ熱処理では内部まで硬くなりません(ただし、窒化処理や加工硬化などの表面硬化手法を用いれば、表面だけ硬さを高めることは可能です)。
これはSUS304がステンレスの中でもオーステナイト系ステンレス鋼という種類であり、急冷(焼入れ)しても鋼の組織(内部構造)が硬いマルテンサイト相に変化しないためです。


解説
一般的な炭素鋼(例:S45C、S50C、SK85など)は、高温(約800 °C前後:一般に780〜840 °C程度)から水や油で急冷すると組織がマルテンサイトという硬い構造に変わり、硬さが上がります。
しかしSUS304の場合、ニッケルを多く含むことで室温でもオーステナイト(比較的柔らかく延性のある組織)を保つ性質があります。

そのため実際の熱処理では、固溶化処理と呼ばれる 1010〜1150 °Cの加熱後に一定時間保持した後にに急冷を行いますが、急冷後も組織はオーステナイトのままで炭素鋼のように硬いマルテンサイトには変化しません。
そのため、SUS304は熱処理(焼入れ)では硬くならりません。

要するに: SUS304は熱で硬くするのではなく、他の方法で硬さを出す必要がある合金なのです。

 

関連項目への深堀No.1
ニッケルとオーステナイト

ニッケルはオーステナイトを安定化させる元素で、約8〜10 mass% 以上含まれると鋼は常温でもオーステナイト組織を保持します。SUS304(Ni =8–10.5 %)が焼入れしてもオーステナイトのままなのはこのためです。

ステンレス系列別Ni含有量の目安
①フェライト系・・・SUS430: 0%
②オーステナイト系・・・SUS304:約8~10.5%、SUS316:約10~14%
③マルテンサイト系・・・SUS420J2、SUS440C:共に0.6%以下
④析出硬化系・・・SUS630:3~5%、SUS631:6.5~7.75%

関連項目への深堀No.2
オーステナイトを常温で維持できる相対的メリット

①高い耐食性: Cr と Ni の相乗効果で不動態皮膜が安定し、錆びにくい。
②優れた靭性・延性: 衝撃や曲げに強く、割れにくい。
③加工性の良さ: 深絞り・冷間圧延などの塑性加工に適する。
④低温特性: −196 °C(液体窒素温度)付近でも靭性を保ち、極低温用途に使用可。
⑤非磁性: 医療機器や磁気を嫌う装置に有利。
⑥溶接性の高さ: 溶接後も割れにくく、後処理が比較的容易。

 



「熱処理研究室」は、金属熱処理専門の武藤工業株式会社が運営しています。各種熱処理、熱処理を含む小ロットの加工案件などご相談ください。

お問い合わせ・お見積りはこちらから。

営業エリア:神奈川、静岡、岩手、東京、埼玉、山梨、青森、秋田、宮城、山形、福島など

熱処理お役立ちライブラリ


会社概要