金属熱処理 Q&A

 ステンレス鋼(SUS304、SUS440Cなど) / 固溶化熱処理 / 応力除去焼鈍に関するお問い合わせ

SUS304の溶接構造物を600℃で応力除去焼鈍する予定です。 大気炉焼鈍する場合と真空炉で焼鈍する場合とで、どんなSUS30の耐食性に差は出ますか?

SUS304の600℃での焼鈍と鋭敏化

まず、SUS304を600℃で焼鈍すると「鋭敏化」という現象が生じる可能性があります。
鋭敏化とは、金属の結晶粒界でクロムが減少し、ステンレスの耐食性を弱めてしまうことです。(不働態皮膜の欠乏層が発生)
この結果、錆びやすくなり、腐食のリスクが高まります。鋭敏化が発生すると、粒界腐食や応力腐食割れといった問題が起きやすくなります。
つまり、どちらの炉を使用しても、600℃での焼鈍はこのリスクを伴います。

大気炉と真空炉での焼鈍の違い

大気炉と真空炉の主な違いは、表面酸化が起こるかどうかです。

(大気炉での焼鈍)
大気炉でSUS304を焼鈍すると、表面に「酸化皮膜」というものが形成されます。この酸化皮膜は一時的に錆を抑えることができますが、その効果は長続きしません。特に、鋭敏化が進んだ部分では、この酸化皮膜が均一にできないことが多く、保護効果が弱まります。結果的に、錆や腐食のリスクは高まる傾向にあります。

(真空炉での焼鈍)
一方で、真空炉では酸化皮膜がほとんど生成されないため、表面の保護効果は期待できません。ただし、酸化による影響が少ないため、大気炉での不均一な酸化皮膜に比べ、仕上がりがクリーンであることが利点です。

表面酸化と不働態皮膜の違い

不働態皮膜とは、ステンレスの耐食性を支える重要な層であり、クロムによって形成されます。一方、大気炉で焼鈍される場合に生成される酸化皮膜は一時的に錆を防ぐものの、不働態皮膜ほど強力ではなく、長期的な保護は期待できません。

錆を防ぐための対策

では、どうすればSUS304の錆や腐食を防ぐことができるのでしょうか?一つの方法として、鋭敏化を避けるために適切な熱処理を行うことが重要です。また、低炭素のステンレスを使用することで、鋭敏化のリスクを減らすことができます。

結論として、どちらの炉を使ってもSUS304の焼鈍は慎重に行う必要があります。特に鋭敏化のリスクを理解した上で、適切な処理方法を選ぶことが大切です。

参考写真

SUS304(18-8ステンレス)スプーン

600℃の真空焼鈍したのち5%の食塩水につけました。(pm17時)
翌日am9時の写真↓

 

 

 

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